「本当にそろばんスゴイの?」と思うような子でした|十段に落ち続けた男の子の話【770名指導】

4歳でそろばんを始めたばかりの、頬杖をついて集中が切れかけている普通の男の子

こんにちは。川上スクールジャパン代表の、たけのり先生です。指導歴25年、いま世界26ヶ国・約770名の生徒さんに教えています。

今日は、ある男の子の話をします。4歳でうちに来て、年長で暗算十段に受かった子です。

こう書くと、天才の話に聞こえますよね。「うちの子とは違う」と思って、そっとページを閉じたくなるかもしれません。

でも、ちょっとだけ待ってください。私はその子のことを、正直こう思っていました。

「この子、本当にそろばんスゴイの?」

この記事の要点

  • 年長で十段に受かった子も、他の子と同じようにたくさんの壁にぶつかっては涙を流していました
  • 練習が終われば年相応に遊んで、ダラダラもする普通の男の子でした
  • その子にもスランプがありました。今までできた問題ができなくなる時期が続きました
  • 十段は一発合格ではありません。何度も挑戦して、何度も届きませんでした
  • そして今もそろばんを続けて、負けて悔しい思いをしています。物語はまだ終わっていません

その子は、他の子と同じように泣いていました

年長で十段に受かった子も、他の生徒さんとまったく同じように、たくさんの壁にぶつかっては涙を流していました。

級はどんどん上がっていきました。それは事実です。

でも、順風満帆だったわけではありません。うちの教室の他の子たちと同じように、壁にぶつかりました。ぶつかっては泣いて、保護者の方に支えてもらって、また立ち上がる。その繰り返しでした。

ですから、私の中で「この子は特別だ」と感じる場面は、実はあまり多くありませんでした。

もし今、お子さんが「できない」と泣いているとしたら。それは、うまくいっていないサインではありません。日本一になる子も、まったく同じところで泣いていました。

練習が終われば、ダラダラする普通の男の子でした

そろばんの練習を終えたその子は、年相応に遊び、年相応にダラダラする、ごく普通の男の子でした。

これは本当です。四六時中そろばんのことを考えている少年ではありませんでした。練習が終われば、普通に遊びます。だらけます。

だから私は、失礼ながらこう思っていたのです。「本当にそろばんスゴイの?」と。

教室で会う姿だけ見れば、他の子とほとんど変わりません。ぼんやりしている日もあれば、ふざける日もある。どこにでもいる子でした。

ただ、ひとつだけ違ったことがあります。

唯一違ったのは、毎日何時間も練習していたことです

その子はそろばんが好きで、毎日何時間も練習していました。それが、他の子との唯一の違いでした。

難しい問題を、ひたすら解いていました。何時間も。毎日。

ここで、正直にお伝えしておきたいことがあります。最初から自分でやっていたわけではありません。はじめは保護者の方が「やりなさい」と言っていたと思います。

これ、大事なところだと思っています。

「好きだから勝手にやる子」が最初からいて、その子だけが伸びる——そういう話ではないのです。最初は言われてやっていた。やっているうちに好きになった。好きになったから、言われなくてもやるようになった。順番は、たぶんこちらです。

ですから「うちの子は言わないとやらないんです」というご相談をいただいても、私はまったく心配していません。最初はみんなそうです。その子もそうでした。

その子にも、スランプがありました

スランプで手が止まった男の子と、机に積み上がった解き終わった問題用紙の山

日本一になる子にも、今までできていた問題ができなくなる時期が、しっかりありました。

ここは、いちばんお伝えしたい部分かもしれません。

あれだけ練習して、あれだけ級を上げてきた子でも、スランプが来ます。昨日まで解けていた問題が、急に解けなくなる。それが何日も、何週間も続く。

お子さんが今そうなっているとしたら、それは後退ではありません。上に行く子が全員通る道です。例外を、私は知りません。

ではその時期、その子は何をしたか。ひたすら問題を解きました。それだけです。魔法のような解決法はありませんでした。

そして私たちは、その子のために別の問題を作りました。今つまずいているところに合わせて、その子専用の問題を用意する。KSJが普段からやっていることを、その子にもやっただけです。

特別な指導をしたわけではありません。止まっている場所を見つけて、そこに合う問題を渡す。それを、泣いている子にも、日本一になる子にも、同じようにやっています。そろばんが続く子と続かない子の違いについてはそろばんが続かない子供の3つの違いにもまとめました。

十段は、一発合格ではありませんでした

その子は十段に何度も挑戦して、何度も届きませんでした。心が折れかけたこともあったはずです。

「年長で十段合格」と聞くと、するっと受かったように聞こえます。でも実際は違います。

受けて、落ちて。また受けて、落ちて。それを何度も繰り返しました。

幼い子にとって、これがどれだけしんどいことか。あれだけ練習して、あれだけ時間をかけて、それでも届かない。何度も。心が折れかけた瞬間が、きっとあったと思います。

それでも受け続けられたのは、本人の「合格したい」という気持ちと、保護者の方のサポートがあったからです。この2つ以外に、私は理由を思いつきません。

そして、合格の日が来ました。大喜びしていました。何度も落ちた後の合格でしたから、当然です。段位や大会についてはそろばんの段位はどこまで?大会は必要?で詳しく解説しています。

物語は、まだ終わっていません

成長して大会に臨む男の子。十段合格も日本一もゴールではなく物語は今も続いている

その子は今もそろばんを続けていて、日本一になったり、他の選手に負けて悔しい思いをしたりしています。

私がこの話をどうしても書きたかったのは、この一行のためです。

年長で十段に受かって、めでたしめでたし——ではありませんでした。その子は今も続けています。日本一になることもあります。そして、他の選手に負けて、悔しい思いもしています。

十段はゴールではなかったのです。通過点ですらなく、ただの途中でした。

負けて悔しがれるというのは、すごいことだと思いませんか。まだ本気だということですから。日本一になってなお、上を見て悔しがっている。

4歳で始めて、泣いて、ダラダラして、スランプに沈んで、十段に何度も落ちて、それでも解き続けた子が、今もまだ途中にいる。そろばんって、そういうものなのだと思います。

この話から、私がお伝えしたいこと

日本一になる子と、いま泣いているお子さんの間に、決定的な差はありません。

この記事で書いてきたことを、並べてみます。

違ったのは、やめなかったことだけです。

もちろん、全員が日本一になれるとは言いません。そんな無責任なことは言えません。そもそも、日本一を目指す必要もありません。

ただ、お子さんが今どこにいても——泣いていても、ダラダラしていても、スランプでも、検定に落ちても——それは日本一になった子が通ったのと、まったく同じ道です。それだけは、はっきりお伝えできます。

その子のペースで大丈夫です。焦らなくて大丈夫です。泣いてばかりだった子が全国一になった話も、よろしければあわせて読んでみてください。

よくあるご質問

年長で十段って、やっぱり特別な才能ですか?

その子を4歳から見てきた私の実感としては、教室での様子は他の子とほとんど変わりませんでした。壁で泣き、スランプに沈み、十段にも何度も落ちています。違ったのは、そろばんが好きで毎日練習を続けたことでした。

うちの子は言わないと練習しません。それでも大丈夫ですか?

大丈夫です。この子も、はじめは保護者の方が「やりなさい」と言っていました。やっているうちに好きになり、好きになってから自分でやるようになった、という順番です。

スランプのとき、家では何をすればいいですか?

特別なことは要りません。この子も、ひたすら問題を解いただけです。KSJでは、つまずいている場所に合わせてその子専用の問題を用意します。ご家庭では、続けられる環境を整えていただければ十分です。

検定に落ちてしまい、子どもが落ち込んでいます

年長で十段に受かった子も、何度も落ちています。落ちることは、上を目指している証拠です。落ちた回数は、そのままもう一度受けた回数でもあります。

何歳から始めるのがいいですか?

この子は4歳でしたが、5〜6歳で始める子が多い印象です。始めどきに正解はありませんので、3歳・4歳のそろばんは早すぎるかどうかもご参考ください。

十段はどのくらいすごいのですか?

級・段位の目安はそろばんは何級からすごい?にまとめています。ただ、この記事でお伝えしたかったのは十段のすごさではなく、そこに至るまでに何度も泣いて、何度も落ちたという事実のほうです。

おわりに

「本当にそろばんスゴイの?」

4歳のあの子を見ながら、私は失礼にもそう思っていました。今でもその印象は、そんなに間違っていなかったと思っています。あの子は普通の男の子でした。

ただ、普通の男の子が、毎日そろばんを弾き続けた。泣きながら、ダラダラしながら、落ちながら、それでも弾き続けた。その先に十段があって、日本一があって、そして今日もまた、誰かに負けて悔しがっている。

お子さんの今日の1問も、きっとその道の途中です。

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